不妊治療で休暇取得する職員が増えている現状をふまえ、ブライダルチェックを提供
―西武信用金庫さまが職員向けにブライダルチェックを提供した背景をお聞かせください。
ご担当者様:当金庫は、相手を思いやり助け合う協同組合の原点である「相互扶助」の考え方を大切にし、人や地域、未来から選ばれる「やさしい」金庫を目指しています。お客さまや地域を「しあわせ」に「豊か」にするためには、長い時間をかけて信頼関係を築くことが必要であり、そのためには職員が安心して長く働ける職場づくりが欠かせないと考えています。
今後環境を整えるために、当金庫では、たとえば「短時間勤務制度」が12歳まで適用可能だったり、看護休暇や介護休暇の日数を拡充したり、提携しているスポーツ施設を利用できたりと、福利厚生や健康管理には力を入れています。そのひとつである「メディカルケア休暇制度」は、入院など長期療養が必要なときに有給休暇とは別で年間15日間の休暇を取得できる制度です。
メディカルケア休暇の利用状況について、人事部長から「不妊治療のために休暇を取得する職員が増えている」という報告を受けたことが、今回ARCHのブライダルチェックを提供したきっかけになりました(注:職員のプライバシーに配慮し、メディカルケア休暇の取得状況は人事部長のみ把握しています)。
不妊治療は身体的にも精神的にも負担が大きく、治療と仕事を両立させるのが困難になるケースも少なくありません。不妊治療に取り組んでいる職員が多いのであれば、自分の妊孕性を知ることのできるブライダルチェックの潜在的需要もあるのではないかと考え、今回の実施につながりました。
なお、今回は試験的な意味合いも込めて、期間限定で先着30名のみを対象にブライダルチェックを提供することにしました。

予想よりも多くの職員がブライダルチェックを利用。女性だけでなく男性職員の受診も
―ブライダルチェックを提供するために、具体的にどういったかたちで職員の皆さんに周知していったのですか。
ご担当者様:ブライダルチェックは、まだ世間的にもなじみのない言葉です。単に受診希望者を募るだけでは利用率が低くなると予想したので、まずは妊娠の仕組みや不妊治療についての基本知識を学ぶ動画研修を実施しました。不妊治療に対する理解はまだまだ浅く、そもそも妊娠の仕組みについてのリテラシーもあまり高くないのが実情なのかなと思います。研修で知識をインプットして理解を深めた上で、必要性を感じた方がブライダルチェックを受けられる二段構えの体制で行いました。
研修は2部構成になっていて、前半はパワーポイントを使った講義形式で妊娠の仕組みなどの基礎知識を学びました。動画の後半はパネルディスカッション形式で実際の体験談を聞くというものです。リアルな不妊治療の実体験は、日常生活ではなかなか聞くことができないので、貴重な情報だと感じました。
また、プライバシーの保護も重視しています。動画研修を受講したあと、検査希望者はARCHのスマートフォンアプリを使って自分でクリニックの予約をし、受診やカウンセリングを受けることになります。その後、ARCHから「何名の利用がありました」という報告を受けて費用を当金庫から支払います。そのため、誰が実際に受診したのか金庫内では把握していません。ブライダルチェックの受診自体は秘密にしなくてもよいのかもしれませんが、いずれにしても、職員にとって安心して利用できる環境を整えられたと思います。
―今回の取り組みを職員の皆さんに発信する際に、工夫したことはありますか?
ご担当者様:ARCHから資料をご用意いただけたので助かりましたね。また、職員に会う機会があれば、「この制度、利用してみない?」と声をかけるようにもしていました。ブライダルチェックを受診することの身体的な負担は特にありませんし、せっかくの機会なのですから、多くの職員に利用してほしいなと思って積極的に声かけをしました。
―実際、どのくらい職員の方が利用されたのですか。
ご担当者様:先着30名として募集したところ、26名の利用がありました。正直なところ、10人も来ないかもしれないと考えていたので、多くの職員が積極的に利用してくれたのは嬉しい驚きでした。また、利用申請を締め切ったあとで「通達に気づかず利用できなかった」という声もあり、潜在ニーズの高さを感じましたね。
利用者の全容は把握していないのですが、利用したことを私に直接話してくれたのは20代後半〜30代前半の職員が多かったです。募集の対象者は「結婚状況にかかわらず、子どもを授かりたいと考えている男女」としたため、現時点でパートナーがいなくても自分の状態を知りたいという理由でブライダルチェックを受けた職員もいました。
また、今回は女性だけでなく男性も利用可能としたので、夫婦ともに西武信用金庫の職員であれば2人とも金庫負担、パートナーが別の会社勤務などであれば職員の分だけ金庫負担というルールにしました。実際に、男性職員の利用もあったと聞いています。
今回のブライダルチェックの結果で妊娠しにくいことがわかり、不妊治療を始めた職員もいると聞いています。本人にとってはショックなことですが、早期に自分の状態を知って治療につながったのはよかったのではないかと思います。
―ご自身もブライダルチェックを受けられたそうですね。
ご担当者様:私自身、結婚して1年ほどのタイミングだったこともあって利用しました。今回の取り組みがなかったら「結婚したばかりだし、急がなくてもいいかな」と考えて、そこまで積極的に考えていなかったと思いますね。
ただ、実際に研修動画を視聴して、健康なら誰でも妊娠できるわけではないことを知りました。そこで夫婦で検査を受けることにしたんです。夫と一緒に結果を聞きに行きましたが、ちょっと緊張しましたね。自分の体のことを知ることができたので、やはり受診してよかったと思いました。

ゆくゆくはブライダルチェックを誰でもいつでも利用できる福利厚生にしたい
―今回の取り組みを経て、今後もブライダルチェックの取り組みを実施したいと考えていますか。
ご担当者様:今後も継続して実施していきたいと考えています。今回ブライダルチェックを受けたかったのに受けられなかった方もいたので、周知方法や募集期間などもっと工夫して告知したいですね。将来的には、誰でもいつでも利用できるように、当金庫の福利厚生制度に組み込みたいとも考えています。
また、妊娠や不妊治療についてのリテラシー向上を目指した研修もさらに取り組んでいきたいです。当事者ももちろんなのですが、上司や支店長などのマネジメントクラスにも知識と理解を深めてもらう必要があります。休暇を取れる制度があっても、利用しづらい雰囲気があったら意味がありません。今回の施策やメディカルケア休暇制度などを併用しながら、不妊治療と仕事を両立できるような環境づくりを進めていきたいですね。
会社の風土を変えていくためには、上層部の意識改革も欠かせません。管理職研修なども含めて、すべての世代がこうした話題を学ぶ機会を増やしていきたいと思います。
